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松山地方裁判所 昭和35年(ヲ)39号 決定

決定

愛媛県喜多郡内子町大字袋口甲二三二五番地

申立人(債務者)

宮 岡 重 光

右代理人、弁護士

高 橋 英 吉

右復代理人、弁護士

新 野   毅

愛媛県松山市湊町四丁目七六番地

相手方(債権者)

松山信用金庫

右代表者、代表理事

松 岡 貞 市

右代理人、弁護士

今 井 源 良

当裁判所が昭和三五年二月一六日別紙目録記載の不動産につきなした強制執行開始決定に対し申立人は昭和三五年四月二〇日異議の申立をなしたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件異議申立を棄却する。

本件申立費用は申立人の負担とする。

事実

申立復代理人は「本件強制競売始開決定を取消す。本件競売申立は却下する」との裁判を求め、その理由として

一、相手方は松山地方裁判所昭和三〇年(ワ)第四七号同三二年第一六二号の約束手形金請求事件の仮執行宣言附判決正本に基づき本件競売申立をなしているところ、右申立は相手方の意思に基づくものに非ずして申立外石丸惣蔵の示唆によりなされた虚無の申立であり、申立人の代理人今井源良は相手方が委任した代理人でないからかかる無権代理人の申立に基づきなされた本件競売開始決定は無効のものである。

二、本件競売開始決定には仮執行宣言附判決に基づく旨の記載を欠いでいるから違法である。

と述べ、(証拠省略)

相手方代理人は主文同旨の裁判を求め、申立人主張事実を否認し

一、申立人主張の各約束手形金請求事件において弁護士である今井源良は相手方代表者松岡貞市より民訴第八一条第一、二項に定める訴訟代理権の授与を受け、これに基づき本件強制競売の申立をしているものであるから本件異議申立は失当である。

と述べ、(証拠省略)

理由

第一、(一)競売申立手続における代理人が代理権を欠缺しているという主張はそれ自体独立して民訴第五四四条の異議申立事由となりうるか。

強制競売申立における代理人の権限の存否は民訴総則の規定が準用せられ裁判所の職権調査事項に属するけれども、強制競売開始決定をなした後では裁判所はも早この点につき職権をもつて取消すぺき権限を有しない。競落許可決定があればこれに対する民訴第六七二条の異議により債務者は救済を求めうるが、それ以前において拱手傍観する外に途がないとなすのは不合理であり、何等かの救済方法を認めるのが相当である。したがつて、代理権人欠缺の主張はそれ自体独立して民訴第五四四条の異議申立事由となりうるものと解したい(明治三九年一一月二二日大審院判決参照)

(二) 申立人の異議事由(一)に対する判断。

申立人の異議申立事由中強制競売申立が相立方の意思に基づくものでないとの点は本件申立が代理人によりなされているところからして結局代理人の権限欠缺に対する判断をすれば足るわけである。

そこで申立人主張の代理権の有無につき審究するに、(証拠省略)を総合すると、申立人と相手方間の松山地方裁判所昭和三〇年(ワ)第四七号同三二年(ワ)第一六二号約束手形金請求事件につき相手方の代表理事である申立外太田努は理事長である代表理事松岡貞市の名を以て弁護士である今井源良に対し前者につき昭和二九年一二月二〇日、後者につき昭和三二年四年四月一日附で申立人を被告として右事件の本訴の提起並びに強制執行を包含する民訴第八一条に掲げてある一般並びに特別の訴訟代理権を授与する旨の委任状を作成して右今井源良に交付しその頃右授権行為につき名義人である相手方代表者松岡貞市に報告してその承認を受けたこと、右今井源良は右委任状を当時事件の係属していた松山地方裁判所に提出したことが各認められ、(中略)右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によると、本件強制競売申立は弁護士今井源良が相手方より授与せられた訴訟代理権に基づきなした適法のものであるといわなければならない。

第二、申立人の異議事由(二)に対する判断。

申立人主張のとおり仮執行宣言附判決に基づく旨の記載をすることは債務名義の表示方法として最も正鵠なものであることは明らかであるが、本件強制競売開始決定のごとく「松山地方裁判所昭和三〇年(ワ)第四七号、昭和三二年(ワ)第一六二号約束手形金請求事件判決の執行力ある正本」と表示しても債務名義としては特定しているからこれを以て足るというぺく、申立人の主張はそれ自体失当を免れない。

第三、結語。

本件申立人の申立事由はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担については民訴第八九条により主文のとおり決定する。

松山地方裁判所

裁判官 矢 島 好 信

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